神社やお寺の境内で、たくさんの願い事が掛けられた絵馬(えま)。
初詣や合格祈願で書いたことはあっても、「そもそも絵馬とは何なのか」「なぜ”馬”という名前なのか」までは、意外と知られていないのではないでしょうか?
結論からお伝えすると、絵馬とは、願い事や祈願成就のお礼を神様・仏様に伝えるために奉納する、絵の描かれた木の板のことです。
その名前は、かつて神様に生きた馬を奉納していた古代の風習に由来しています。
本記事では、絵馬の意味と「馬」の由来、神馬から板絵へと変わっていった歴史、五角形の理由、絵柄や形に込められた意味まで、わかりやすく解説します。
絵馬の書き方・願い事の例文・持ち帰った絵馬の処分方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
この記事の結論絵馬とは?意味をわかりやすく解説
絵馬(えま)とは、神社やお寺に願い事や祈願成就のお礼を伝えるために奉納する、絵の描かれた木の板のことです。
多くは片面に絵が描かれ、もう片面に願い事を書く余白が設けられています。
参拝者は授与所で絵馬を授かり、願いを記して境内の「絵馬掛け(絵馬掛所)」に掛けて奉納します。
合格祈願や安産祈願、家内安全など、人々の祈りをかたちにしたものであり、神社本庁も絵馬を「人々の祈りの形を現したもの」と説明しています。
絵馬を奉納する意味|神仏への祈願とお礼

絵馬を理解するうえで大切なのは、絵馬が「持ち帰るもの」ではなく「奉納するもの」だという点です。
「奉納」とは、神様や仏様に物を捧げてお供えすることを指します。
絵馬は、願い事を神仏にお伝えするためのお供え物であり、同時に、願いが叶ったときにその感謝を伝えるためのお供え物でもあります。
つまり絵馬には、「祈願」と「お礼」という2つの役割があります。
お願いをするときだけでなく、願いが叶ったあとのお礼参りで「ありがとうございました」と記した絵馬を納めるのも、絵馬の本来の使い方のひとつです。
お守り・お札・おみくじとの違い
神社やお寺で授かるものには、絵馬のほかにお守り・お札・おみくじなどがあります。
それぞれの役割と扱い方の違いを整理すると、絵馬の位置づけがよくわかります。
| 授与品 | 役割 | 扱い方 | 向き |
|---|---|---|---|
| 絵馬 | 願い事・お礼を神仏に伝える | 境内に奉納する | 人から神仏へ |
| お守り | ご加護を身近に受ける | 身につけて持ち歩く | 神仏から人へ |
| お札(神札) | 家や場所をお守りいただく | 神棚などに祀る | 神仏から人へ |
| おみくじ | 神仏からのお告げ・指針を受ける | 持ち帰る/境内に結ぶ | 神仏から人へ |
お守りやお札、おみくじが「神仏から人へ」授かるものであるのに対し、絵馬は「人から神仏へ」捧げるものです。
方向が逆になっている点が、絵馬ならではの特徴といえます。
おみくじを境内の枝や結び所に「結ぶ」のと、絵馬を絵馬掛けに「奉納する」のも、見た目は似ていますが意味は異なります。
おみくじは神仏とのご縁を結ぶ行為、絵馬は願いをお供えする行為と覚えておくとよいでしょう。
子どもにも説明できる絵馬のやさしい説明
お子さんに「絵馬って何?」と聞かれたときは、「神様へのお手紙」と説明するのがいちばん伝わりやすいでしょう。
「木の板にお願いごとを書いて、神社に飾っておくと、神様が読んでくれるんだよ」「お願いが叶ったら、ありがとうのお手紙を書くんだよ」と伝えれば、絵馬の2つの役割を自然に理解してもらえます。
「どうして馬っていうの?」と聞かれたら、「昔は、神様に本物の馬をプレゼントしていたんだよ。でも馬は高くて大変だから、絵に描いた馬を代わりにあげるようになったの」と答えてあげてください。
この由来については、次の章で詳しくご紹介します。
絵馬はなぜ「馬」?名前の由来
神様の乗り物「神馬(しんめ)」を奉納していた
古来、馬は神様の乗り物と考えられてきました。神様は馬に乗って人間の世界に降りてくるとされ、神様に奉納された馬は「神馬(しんめ・じんめ)」と呼ばれます。
奈良時代の『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』や『続日本紀(しょくにほんぎ)』には、雨乞い(祈雨)や雨止め(止雨)などの祈願のために、朝廷が神社に生きた馬を献上していたことが記されています。
このように、「大切な願いを神様に聞き届けていただくために、神様の乗り物である馬を捧げる」という考え方が、絵馬の出発点となっています。
今でも、伊勢神宮や上賀茂神社、日光東照宮など、境内に「神馬舎(しんめしゃ)」を設けて生きた神馬を飼育している神社があります。
また、生きた馬の代わりに馬の像を置く「神馬像」も、多くの神社で見ることができます。
雨乞いには黒馬、晴れ乞いには白馬
奉納する馬の毛色にも意味がありました。
平安時代の法令集『延喜式(えんぎしき)』には、雨を降らせたいときには黒い馬を、雨を止ませたいときには白い馬を奉納したという記述があります。
黒は雨雲、白は晴れた空を象徴していたと考えられています。
この風習が今も伝わるのが、水の神様・高龗神(たかおかみのかみ)を祀る京都の貴船神社です。
貴船神社は歴代の天皇が祈雨・止雨の際に神馬を奉納した神社として知られ、境内には黒馬と白馬の像が並んで建てられています。
生きた馬の代わりに馬像・板立馬、そして「板に描いた馬」へ
とはいえ、生きた馬は非常に高価で、誰もが奉納できるものではありません。
神社の側にとっても、奉納された馬を飼い続けるのは大きな負担でした。
そこで、生きた馬の代わりに、土で作った馬の像(馬形・うまがた)や、木の板を馬の形に切り抜いたもの(板立馬・いただてうま)が奉納されるようになります。
さらに簡略化が進み、木の板に馬の絵を描いて奉納する形が生まれました。これが「絵に描いた馬」、すなわち「絵馬」の始まりです。
生きた馬 → 馬の像 → 板の馬 → 馬の絵
というように、願いを届ける気持ちはそのままに、形だけが少しずつ簡素になっていったのです。
絵馬の歴史|時代ごとの変遷
絵馬は、奈良時代から現代まで1,000年以上にわたって続いてきた祈りの文化です。
時代ごとに、絵馬の大きさや絵柄、奉納する人が少しずつ変わっていきました。
| 時代 | 奉納するもの | 主な奉納者・特徴 |
|---|---|---|
| 古代〜奈良時代 | 生きた馬(神馬)/馬形 | 朝廷・豪族。祈雨・止雨など国家的な祈願 |
| 奈良〜平安時代 | 板に描いた馬(板絵馬) | 絵馬の原型が誕生。遺跡から出土例あり |
| 鎌倉〜室町時代 | 大絵馬(額絵馬) | 武士・貴族。絵師による大型の奉納画、馬以外の画題も登場 |
| 江戸時代 | 小絵馬 | 庶民に普及。家内安全・商売繁盛など身近な願い事 |
| 現代 | デザイン絵馬 | 寺社ごとの個性ある絵柄・形。合格祈願・縁結びなど |
奈良〜平安時代:絵馬の原型が生まれる
板に馬を描いた絵馬は、奈良時代にはすでに存在していたと考えられています。
平城京跡をはじめとする奈良時代の遺跡から、馬が描かれた木の板が出土しており、これらが現在確認できる最も古い絵馬とされています。
この頃の絵馬は、生きた馬の代わりとして奉納されたものであり、絵柄はあくまで「馬」でした。
奉納するのも、朝廷や有力者が中心だったと考えられます。
平安時代に入ると、貴族のあいだで神社に板絵の馬を奉納する習慣が広がっていきます。
鎌倉〜室町時代:大絵馬の登場と馬以外の画題
鎌倉時代から室町時代にかけて、絵馬は大きく変化します。
ひとつは大型化です。武士や貴族が、有名な絵師に描かせた大きな額入りの絵馬(大絵馬・額絵馬)を奉納するようになりました。
これらは神社の拝殿や、絵馬を掲げるための専用の建物「絵馬堂(えまどう)」に飾られ、美術品としての価値も持つようになります。
もうひとつは画題の多様化です。
馬だけでなく、神仏の姿や物語の場面、祭礼の様子、干支の動物などが描かれるようになり、「絵馬」という名前はそのままに、絵の内容は自由になっていきました。
江戸時代:小絵馬が庶民に広まる
江戸時代になると、庶民が気軽に奉納できる小さな絵馬(小絵馬)が広まります。
これが、現在私たちが手にする絵馬の直接のルーツです。
この時代の絵馬には、人々の身近な願いがそのまま表れています。
家内安全や商売繁盛、豊作祈願といった願い事のほか、目の病気を治したい人が「目」の絵を、手の病気を治したい人が「手」の絵を奉納するなど、願いの内容を絵で表す絵馬が各地で生まれました。
絵馬を専門に描く「絵馬師」や、絵馬を売る「絵馬屋」も登場し、絵馬は庶民の信仰に欠かせないものとして定着していきます。
現代:寺社ごとの個性あるデザイン絵馬へ
現代の絵馬は、あらかじめ絵が印刷された小絵馬に、参拝者が願い事を書き添える形が一般的です。
絵柄は寺社ごとに工夫が凝らされ、御祭神にちなんだモチーフやご利益を表す図柄、その年の干支など、さまざまなデザインが見られます。
近年はハート形や動物の形をした絵馬、アニメ作品とコラボした絵馬なども登場し、絵馬を集めて各地の寺社を巡る方もいらっしゃいます。
受験シーズンには合格祈願の絵馬がずらりと並ぶ光景が見られるなど、絵馬は今も「人々の祈りの形」として生き続けています。
絵馬の種類|大絵馬と小絵馬
大絵馬(額絵馬):絵馬堂に掲げられる奉納画
大絵馬は、額に入れた大型の絵馬で、「額絵馬」とも呼ばれます。
中世以降、武士や商人、講(信仰者の集まり)などが、絵師に依頼して描かせた絵を神社やお寺に奉納したものです。
大絵馬は拝殿の軒下や絵馬堂に掲げられ、何十年、何百年と残されてきました。
歴史上の合戦の場面や、神話・物語、当時の風俗などが描かれており、地域の歴史を伝える貴重な資料として、文化財に指定されているものも少なくありません。
神社を参拝した際には、拝殿の軒下や絵馬堂を見上げてみてください。古い大絵馬が掲げられていることがあります。
小絵馬:参拝者が願いを書いて奉納する現在の絵馬
小絵馬は、参拝者が個人の願い事を書いて奉納する、手のひらサイズの絵馬です。
現在、授与所で授かる絵馬はこちらにあたります。
江戸時代に庶民のあいだで広まったもので、表面に絵、裏面に願い事を書く余白があるのが一般的な形です。
奉納された小絵馬は境内の絵馬掛けに掛けられ、一定期間を経たのち、寺社がまとめてお焚き上げを行います。
大絵馬が「後世に残すための奉納画」であるのに対し、小絵馬は「願いを届けて役目を終える祈願札」といえるでしょう。
絵馬の形と絵柄に込められた意味
絵馬といえば、上部が山形にとがった五角形(将棋の駒のような形)を思い浮かべる方が多いでしょう。この形は、かつて大絵馬に付けられていた屋根の名残です。
絵馬は屋外に奉納されるため、雨風から絵を守る必要がありました。
そこで大絵馬には小さな屋根が付けられ、その屋根の形がそのまま小絵馬の輪郭として受け継がれたのです。
東京都神社庁も、絵馬の形について「板の上部を山形にしたものが大半を占める」と説明しています。
五角形の頂点は、いわば小さな「家」の屋根。神様に捧げる願いを、屋根のある家でお守りするという意味合いも感じられます。
絵柄の意味|馬・干支・御祭神ゆかりのモチーフ
絵馬の絵柄には、大きく分けて次のような種類があります。
絵馬の絵柄を見れば、その寺社がどんな神様を祀り、どんなご利益で知られているのかがわかります。参拝の際にぜひ注目してみてください。
馬
最も伝統的な絵柄です。神様の乗り物として、願いを神様のもとへ届ける意味が込められています。白馬は晴れ、黒馬は雨を願う意味を持っていました。
干支
その年の干支の動物を描いた絵馬は、初詣の時期に多く授与されます。一年の無事と幸せを願う縁起物としての意味があります。
御祭神・ご本尊にゆかりのモチーフ
学問の神様・菅原道真公を祀る天満宮では梅や牛、稲荷神社では神様のお使いである狐、八幡宮では鳩など、その寺社の神様にゆかりの深い動物や植物が描かれます。
ご利益を表す図柄
安産祈願には戌(犬)、縁結びには結び目や鳥居、病気平癒には治したい体の部位など、願いの内容を直接表した絵柄もあります。江戸時代の小絵馬から続く伝統です。
変わり形の絵馬|ハート・ひょうたん・狐など
近年は、五角形以外のさまざまな形の絵馬も増えています。
ハート形

縁結びで知られる寺社に多い形です。じつは神社仏閣のハート形は西洋のハートではなく、「猪目(いのめ)」と呼ばれる日本古来の魔除け文様に由来するといわれています。
ハート形の絵馬がある神社・お寺については、以下の記事でご紹介しています。
ひょうたん形

豊臣秀吉を祀る京都の豊国神社では、秀吉の馬印であったひょうたんの形をした絵馬が授与されています。出世開運のご利益にちなんだものです。
狐の形

京都の伏見稲荷大社をはじめ、稲荷神社では神様のお使いである狐をかたどった絵馬が見られます。
しゃもじ形

「敵を召し取る(飯取る)」の語呂合わせから、必勝祈願の絵馬としてしゃもじ形が用いられることがあります。
絵馬は神社だけ?お寺にもある理由
絵馬は神社のものというイメージがありますが、お寺でも絵馬を授与・奉納することができます。
絵馬の起源は神様への馬の奉納にありますが、日本では長い間、神道と仏教が深く結びついた「神仏習合」の時代が続きました。
そのなかで、神社で生まれた絵馬の風習はお寺にも広がり、仏様への祈願や、願いが叶ったお礼としても用いられるようになったのです。
たとえば、大阪の四天王寺では、聖徳太子の愛馬「黒駒」にちなんだ絵馬が授与されています。
また、観音様やお地蔵様、虚空蔵菩薩など、ご本尊のご利益に合わせた絵馬を用意しているお寺も多くあります。
絵馬を書く・奉納する・納めるときは
絵馬を奉納する際は、まずご社殿・ご本堂にお参りを済ませましょう。
その後、授与所で絵馬を授かり、奉納するのが正しい手順です。
絵馬の書き方と例文・奉納手順については以下の記事で詳しく解説しています。








